東京大学 グローバル教育センター(UTokyo GlobE)は、プリンストン大学のGlobal Japan Labと共に「People and Culture of Japan in the United States: Past, Present, and Future」と題した短期プログラムを春期休暇中に開催しました。計16名の学部生(各大学から8名ずつ)が参加し、東京大学ニューヨークオフィス(3月9日~12日)、ラトガース大学(3月13日)、プリンストン大学(3月14日~16日)にて共に学びました。
ニューヨークオフィスでは、異なる分野の専門家に講義をしていただきました。例えば、佐藤仁教授(東京大学 東洋文化研究所/コロンビア大学客員教授/元プリンストン大学客員教授)は、自身の国際的なキャリアを振り返り、様々な人との出会いと「range of thoughts(思考の幅)」を大切にすることについて話してくださいました。ある学生が「講義の始めに、若い女性と老婦人の両方が見えるだまし絵を見せてくれたことで、一つのものを複数の視点から見ることの重要性を理解することができた」と振り返っているように、佐藤教授のユニークな講義スタイルは学生たちの関心を高めました。
ケネス・盛・マッケルウェイン教授(東京大学 社会科学研究所/コロンビア大学客員教授/プリンストン大学卒業生)は、過去75年以上の間改正されていない日本国憲法の特異性について講義されました。マッケルウェイン教授は、様々な国の憲法に関する定量的研究の成果を紹介し、科学的客観性の価値を示してくださいました。ある学生は、「日本の状況を世界の憲法の動向と比較することで、世界における日本の立ち位置について、偏りのない広い視点を得ることができた」と振り返っていました。
また、森 美樹夫 大使(ニューヨーク日本総領事/東京大学卒業生)をお迎えし、学生と対話していただく機会にも恵まれました。森 大使と学生らが議論したトピックは、トランプ政権とその日米関係への影響、日本製鉄によるU.S.スチール買収計画など、多岐にわたりました。現役大使との意見交換は非常に貴重な経験であり、ある学生は「日米関係の最前線で働くプロフェッショナル」である大使との対話に感銘を受けていました。
ニューヨーク在住のオペラ歌手(テノール)の駒形 孝之 氏は、プログラムの雰囲気を大きく変えてくださいました。参加学生の多くがオペラに行った経験がほとんどないか、全くなかったため、駒形氏の歌唱パフォーマンスにとても魅了されていました。また、駒形氏はご自身のキャリアやこれまでに直面した困難等について話してくださり、「オペラ歌手は何歳頃に全盛期を迎えるのか」、「オペラ業界において人種を念頭に置いたタイプキャストはあるのか」等のトピックについて学生とディスカッションしてくださいました。
若林 晴子 教授(ラトガース大学アジア言語文化学部/プリンストン大学卒業生)は、19世紀後半にラトガース大学で学んだ日本人学生-例えば、明治維新で重要な役割を果たした勝 海舟の息子である勝 小鹿など-について講義してくださいました。講義では、勝 海舟とウィリアム・エリオット・グリフィス(ラトガース大学と開成学校で日本人学生を指導した人物)との間で交わされた手紙が紹介されました。その手紙が収蔵されている東京の勝 海舟記念館近くに住むある学生は「一見すると程遠く感じられる、私の地元と太平洋を越えた大学の歴史的な繋がり」について知ることができたと振り返っていました。
3月13日にニューヨークを離れ、ラトガース大学を訪れてフェルナンダ・ペローネ氏(ラトガース大学アレクサンダー図書館司書)の講義を受けました。ペローネ氏はウィリアム・エリオット・グリフィスコレクションを紹介してくださり、学生たちはラトガース大学と日本におけるグリフィスの仕事を記録した原稿、写真、書簡などの貴重な資料を熱心に観察することで、前日に受けた若林 教授の講義で学んだことについて、さらに理解を深めることができました。
ラトガース大学を後にしてプリンストンへと移動した翌日(3月14日)、両大学の学生はプリンストン大学の教員による二つの授業に参加しました。山﨑 順子 先生(プリンストン大学 助教)のセミナーでは、「百円の恋」という日本映画から複数のシーンが上映され、主人公である32歳女性の置かれた境遇がフェミニズムの視座から分析されました。また、アキル・フレッチャー先生(プリンストン大学 博士研究員)によるゲームワークショップでは、ゲーム内における様々な人種の表象について考察しました。ある学生は、架空のゲームキャラクターが「現在の社会におけるステレオタイプ、偏見、権力のダイナミクスを反映している」と振り返っていました。
3月15日の朝、ジェームズ・レイモ教授(プリンストン大学 社会学部/東アジア研究学部)が、日本からアメリカへの移民と日本の人口減少という二つのテーマについて講義してくださいました。ある学生は、日本の人口減少に歯止めをかけることは喫緊の課題であるにもかかわらず、「多くの日本人が大規模な移民に対して依然として躊躇している」と考察していました。レイモ教授と学生たちは、昼食の間も活発な議論を交わし続けました。
本プログラムでは、ロング・アイランドシティにあるノグチミュージアム(イサム・ノグチの彫刻作品を展示する美術館)への訪問など、インフォーマルなの学習体験も提供しました。また、プリンストンでは大学構内にあるリチャードソン・オーディトリアムでクラシック音楽の演奏を鑑賞しました。さらに、プリンストンの学生たちは東京大学の学生たちにキャンパスを案内してくれました。教室内の授業に留まらない活動を通じて、両大学の学生たちは短期間で友情を築くことができました。